人物煙画『紅楼夢』
『洋画児・紅楼夢綉像』魯忠民編著 人民美術出版社 2003年
「洋画児」は20世紀前半、国外から伝わり、中国で一世を風靡したミニカード。「香煙盒」(タバコケース)1箱に1枚のカードが封入されており、上海では「香煙牌子」「煙画児」とも呼ばれました。本来は煙草の販売促進が目的でしたが、当時は中外問わず煙草メーカーの競争が激化した時期で、謂わばおまけの「洋画児」も共に発展して質・内容共に充実し、各階層の人々、特に児童や青年に愛され、コレクションの対象となりました。小さな物であろうに、細かな部分までよく描き込まれた美しい図柄で、内容は、政治・経済・民俗・文学・戯曲・植物・体育・娯楽・風光と多方面に渡り、全て揃えれば20世紀前半の中国百科全書にもなるわけです。書籍は煙画カードと共に台湾の二手書店(古本屋)で購入。96NT$
左はマッチ箱に印刷された煙画。北京大観園の土産物店で購入。元々は煙草のおまけであった煙画カードをマッチ箱の柄にするというのはなかなかのアイディア。でも現在はマッチ箱というものが珍しくなってしまいましたね。右は煙草おまけ時代のイメージ図。
「『紅楼夢』人物煙画」はカード表面に人物図と人物名、番号が記されています。1番は賈宝玉で、最後120番は警幻仙姑。賈宝玉に金陵十二釵が続くのかと思いきや、林黛玉・李紈・薛宝釵・賈元春・賈惜春・史湘雲・薛宝琴・巧姐・妙玉までで、次の11番は道士と僧侶。その後は順不同で、侍女やマイナーな人物も。邢大舅と王仁、賈瑞と賈代儒など、数人をまとめて1枚に描くことも。登場人物ではない姽嫿将軍や絳珠仙草と通霊宝石(ママ)といった人物以外も描かれています。人物の選択や出順には、論紅詩の詩集と同じく、編者や当時の大衆の嗜好が表われるのではないかと思われます。思えば、全てのカードに詩が添えられているので、詩集でもあるわけです。襲人のカードは無いのかと思われるほど後出で、詩の内容も辛辣なも。賈環と共に描かれている趙国村(趙夫人の弟・趙国基?)なる人物が現行本では見当たらないのが気になります。各人物カードの裏に人物名を詩題とした七言絶句と「中国南洋兄弟煙草有限公司」の署名があります。詩はオリジナルか、『紅楼夢』本文に登場するものではありません。
『洋画児・紅楼夢綉像』では、「洋画児」の解説に続いて、全120枚のカードを裏面の詩と共に紹介。個人的にはこのカードでトランプでも作れたら面白いなあと思ってしまいました。それでも優に2セットはできるわけで、色々な組み合わせを考えるのも楽しいものです。共に添えられている詩は、いつか訳してみたいと思います。
賈宝玉(紅楼夢繡像)
意綢語密態温存
摂尽名妹百種魂
二十一年情賺足
契然一揖入空門
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